前回までの記事で文章力を上げる方法をご紹介してきましたが、「実際にどう始めればいい?」という疑問もあると思います。そこで今回は、具体的な行動に落とし込んだ「文章力を上げる7日間チャレンジプログラム」を作ってみました。
1日10分、7日間で確実に変化を実感できる内容です。「習慣化」の第一歩として、まずはこの7日間、一緒にチャレンジしてみませんか?
完璧を目指すのではなく、毎日少しずつ、無理のない方法を積み重ねることで、確実に文章力は向上します。下記シリーズで解説します。本原稿は「7日間の実践プログラム編」です。
もくじ
実践!7日間チャレンジ
DAY1:良い文章を見つける
DAY2:真似から始める
DAY3:短く書く
DAY4:具体的に書く
DAY5:推敲を習慣にする
DAY6:表現の幅を広げる
DAY7:共有する
まとめ
「文章力アップ」の7日間チャレンジをご紹介します。このプログラムは、「観察」から「実践」、そして「共有」へと、段階的に書くスキルを磨く設計になっています。それぞれ目的・行動・変化も解説します。
目的:良い文章の特徴を見つける
行動:好きな文章を3つ選び、分析する
変化:自分にとっての「良い文章」の基準ができる
「良い文章を書きたい」その第一歩は「読むこと」から始まります。今日読んだ文章のなかから、好きな文章を3つ選びます。それぞれの良い点をメモし、真似したい表現を書き出します。探す場所はどこでもかまいません。新聞や書籍はもちろん、Webメディアの記事、メールマガジン、ブログ記事、SNSの投稿など。
選んだ文章を「なぜ好きと感じたか」がポイントになります。
この観察をすることで、文章を見る目が養われます。続けていくと、文章の構造を把握する力がつきますし、同時に表現の引き出しが増えます。結果、自分にとっての「良い文章」の基準ができ、それをもとに文章を書けるようになってきます。
■DAY1の課題
今日読んだ文章のなかから、好きな文章を3つ選びます。それぞれの良い点をメモし、真似したい表現を書き出します。
目的:実際に手を動かす
行動:気に入った表現を自分で使ってみる
変化:具体的な表現方法を体感できる
「習うより慣れよ」という言葉があります。文章力も同じです。まずは「真似る」ことから始めます。DAY2の今日は、DAY1で見つけた表現を使ってみます。
まずは1フレーズから段階的に真似してみます。慣れてきたら文章全体に使い、最終的には構成も真似て文章を書いてみます。使用シーンは、ビジネスメール・企画書・プレゼン資料・日報・SNSの投稿、どんな場面でもかまいません。
たとえば、私はよく上司から「結論から言え」と注意されていました。結論から報告している同僚がよく使っている表現に、「ポイントは3つあります」のような言い方があって、「あ、そういえば言いのか」と。これを文章でも真似することにしました。
それ以来メールや文書での報告には、内容をまとめるときに、要素がいくつで、ポイントがどこにあるかをリストアップして書くようになりました。文章を書くときの「真似をする」も同じイメージです。「いいな」と思った表現を、自分の用途やシーンに合わせてカスタマイズして使います。
「いいな」と思う表現を使った例文をつくってみて違和感を感じたら、その違和感も学びになります。「このシーンで使うのは違う」とよくわかりますので。
■DAY2の課題
DAY1で書き出した表現を使って文章を書きます。使用シーンは、ビジネスメール・企画書・プレゼン資料・日報・SNSの投稿、どんな場面でもかまいません。
文章力アップの重要なポイントは「短く」「簡潔に」書くことです。「3行」という制限を設けて表現力を磨きます。
目的:簡潔な文章に慣れる短く書く練習の基本ルールは3つです。
たとえばこんな例です。
【例1】
今日は忙しかった。
新規顧客の対応をした。
良い感触を得られてほっとした。
【例2】
マラソン大会に出場した。
出走前後に飲んだアミノバイタルがいい仕事をしてくれた。
次回も忘れずに持っていこう。
【例3】
今日は何もしない日曜日だった。
窓から入ってくる風が気持ちよかった。
うとうとしているうちに寝落ちしたけど。
3行しかありませんので、書ける内容は限られます。書く時のポイントは、
といった点です。ですが、書くことに慣れることのほうが大切ですので、細かなことは気にせず、まずは書いてみてください。
を目安にやってみると、さっと短文を書く訓練にもなります。
■DAY3の課題
3行日記を書きます。内容は今日のできごとを3行で表現します。1行は30文字程度までとし、要点を明確にします。
抽象的な表現を具体的に変える。それが、今日のチャレンジです。今日も3行日記を書きます。その際に、3つの制限を設けます。
DAY2の例文を使って、この3つの制限を使った表現に変えてみます。
【例1】
今日は5件問い合わせがあって、全て1時間以内に返信。
新規顧客A社と1.5時間の商談を実施。
「価格と品質のバランスが良い」と評価され、来週契約に。
【例2】
マラソン大会に出場した。出場は3回目。
出走前後に飲んだアミノバイタルが疲労感軽減に効いた。
タイムを7分台前半で維持しながら気持ちよく走れた。
【例3】
今日は何もしない日曜日だった。
窓から入ってくる風が気持ちよかった。気温は23度。
うとうとしているうちに1時間半寝ていたみたい。
いずれも内容はあまり変わりませんが、数字と具体性を追記したことで、情景が浮かびやすくなりました。ほんの少しの差ですが、数字と具体例が入ることで、肌感覚が伝わりやすくなります。
■DAY4の課題
具体的な表現を使って、今日も3行日記を書きます。ただし、次の3つの条件を守ってください。必ず数字をひとつ入れる。具体例を最低ひとつ加える。3行という制限は維持する。
目的:推敲の習慣をつける
行動:句読点や文のつながりを確認
変化:文章の完成度が上がる
「推敲」は文章力アップの要。今日は「読み直し」の具体的な方法を身につけます。文章を書いたときは必ず推敲をします。推敲のポイントは、
という流れです。「推敲のチェックリスト」はたとえばこんな内容です。
【 推敲チェックリスト】
1. 句読点のチェック
・読点(、)は適切な場所にあるか
・一文が長すぎないか
・リズムは整っているか
2. わかりにくい表現のチェック
・二重否定はないか
・主語と述語は対応しているか
・指示語(これ・それ・あれ等)は明確か
文章を書き終えた後は、書き上げた達成感で見えなくなっている文章の瑕疵(かし)があることもあります。ですので、少し時間を置いて頭が冷静になったところで、全体的な文章の流れやリズム、表現のよしあしを再確認します。
【改善前】
田中様
先日お送りいただいた件について、検討しましたところ、
これについて承認いたしましたので、それに関する書類を
準備させていただき、来週中には、ご提出できると思います。
ご確認のほど、よろしくお願いいたします。
これはよくあるビジネスメールの文面です。先方とやりとりしていると、当事者しか読まないのでこのままでも通じますが、多くが省略された表現のため、誤解が起こらないとは言えません。ビジネスメールのように、誰がどう読んでも同じ内容が伝わる文章にしたい場合はとくに、抽象化された表現を具体化します。また、文章が長いので分割します。
★改善点
【改善後】
田中様
先日ご提案いただいた「営業プロジェクト2024」について、
社内で検討いたしました。
結果、承認となりましたので、ご報告いたします。
関連書類は来週水曜日までにご提出いたします。
ご確認のほど、よろしくお願いいたします。
この内容なら、意味の取り違えは起こりにくくなります。このような視点で推敲します。
■DAY5の課題
DAY4で書いた3行日記を推敲します。「推敲のチェックリスト」を使って読み直し、必要に応じて加筆修正してください。
目的:表現の幅を広げる
行動:同じ内容を違う言葉で表現
変化:豊かな表現力が身につく
表現を広げるコツはいろいろあります。ここでは「言い換えのバリエーション」「視点の切り替え」のふたつを使って表現してみましょう。
下記のような言いかえをすることで、表現に幅が出ます。
【例】
■商品説明
【和語】
とても良い商品で、使いやすく、値段も手ごろです。
↓
【漢語】
優良商品であり、操作性が高く、価格も適正です。
■業務報告
【抽象的】
業績が良好で、社員の反応も上々でした。
↓
【具体的】
売上が前年比120%に増加し、社員アンケートでは満足度85%を記録しました。
■イベント報告
【事実】
セミナーには50名が参加し、2時間の講演を実施しました。
↓
【感情】
セミナーは満席となり、参加者から「とても勉強になった」「次回も参加したい」という声を多数いただきました。
同じ出来事も、視点を変えることで物事を違った形で表現できます。
立場を変える
出来事を説明する際、物事の要点だけ書くことはよくあります。ですが、視点を切り替えて同じ出来事を別視点で説明できると、読み手に変化を具体的に説明することができますし、理解度が高まりやすくなります。
【例】新システムの導入により、変化が起こっています。
■経営者の視点
新システム導入により、コストを30%削減し、業務効率が2倍に向上、競争力の強化ができています。
■現場担当者の視点
新システム導入により、作業時間が半分になり、ミスが激減。帰宅時間が早くなりました。
■お客様の視点
新システム導入により、対応がより迅速になり、24時間サービス利用可能に。加えて、手続きが簡単になりました。
時間軸を変える
時間軸も同じです。たとえば、「運動する習慣をつけたことで、体重が2キロ減って、よく眠れるようになった」と書きたいとします。それだけでも伝わりますが、運動する前・1か月経過・3か月経過と時間軸を分けて変化を伝えると、過程や変化の度合いが伝わりやすくなります。新聞や雑誌でよく表組みになっているのが、文字による経過の可視化です。
運動開始前 | 始めて1ヶ月 | 3ヶ月継続 |
階段で息切れする | 毎朝10分のストレッチ | 階段が楽に上れる |
体重が5kg増加 | 休日は30分散歩 | 体重が2kg減 |
夜眠れない日が週3回 | 体が少し軽くなる | ぐっすり眠れる |
このように時間軸で表現を変えることで、変化や進捗が明確になり、成果が具体的に示せて、目標や結果がわかりやすく、より説得力のある文章になります。
■DAY6の課題
DAY4で書いた3行日記で「言い換えのバリエーション」を、DAY5で書いた3行日記で「視点の切り替え」を使った文章を書いてください。
目的:客観的な評価を得る
行動:書いた文章を誰かに読んでもらう
変化:改善点が明確になる
文章力アップの総仕上げは「書いた文章を共有して、フィードバックをもらう」です。これまでの成果を誰かと共有してみましょう。フィードバックのステップは次のとおりです。
文章の種類 | ビジネス文書 | SNS投稿 |
共有する相手 | ・上司や先輩 ・同僚 ・メンター |
・友人 ・同業者 ・フォロワー |
フィードバックのポイント | ・文章の構成は適切か ・説得力があるか ・専門用語の使い方は適切か |
・興味を引く内容かどうか ・読みやすさ ・共感できる部分はあるか ・「いいね」「リポスト」したくなるか |
直接話ができる場合は、詳しく訊ねてみるのもおすすめです。「どうでしたか?」とざっくり聞くと、相手も困ってしまいますので、「この部分はわかりやすかったですか?」「もっとよくするためのアドバイスをください」など具体的に質問できるとよいです。
気をつけたいのは、フィードバックをもらって気分を悪くしないことです。文章を批判されたと感じると、細かく傷つく方もいます。ですが、これはあくまで文章に対する感想で、個人批判ではありません。
よりよい文章を書くために自分以外の視点で気づきをもらっていることを忘れず、次に活かすことを前提で話を伺ってください。
■DAY7の課題
DAY5・DAY6で書いた文章のなかから、誰かに文章を見せてフィードバックをもらってください。もし共有できる相手がいない場合は、SNSに投稿して、「いいね」をもらえるかどうか確認するのもひとつの手段です。
7日間のチャレンジ、お疲れさまでした。ここからが本当のスタートです。これまでの学びを活かして、読む習慣・書く習慣・推敲する習慣・共有する習慣を続けてみてください。地道な努力にはなりますが、文章力は、日々の積み重ねで必ず向上します。
次回は、【よくある悩みと解決法編】毎日少しずつ「文章力」を上げる方法【5】をお届けします。